【イベント報告】メタバースとリアルの融合がもたらす顧客の新体験価値(5/26第57回NRLフォーラム)
5月26日、第57回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。
Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関して調査研究をしたり、マーケティング視点での提言を行ったりする任意団体である。
定期的に開催されているフォーラムの第57回目となる今回は、メタバースとリアルの融合をテーマに、株式会社ジェイアール東日本企画(以下「JR東日本企画」)の光富 憲太朗 氏と株式会社GARDE(以下「GARDE」)の石川 渡 氏を招き、今後の展望や課題についてディスカッションした。
出版社、FMラジオ局勤務を経て、2007年株式会社ジェイアール東日本企画入社、プロモーション局(現エクスペリエンシャル・プロモーション局)に配属。JR東日本を始め、様々な業種のクライアントのプロモーション業務を担当。
主な業務:大型商業施設 開発/開業関連事業、外資系食品会社 アンバサダー・プログラム支援プロモーション、国内食品会社 新商品開発コンサルティング/プロデュース 他多数。
最近の担当業務:JR東日本 高輪ゲートウェイ駅開業イベント「Takanawa Gateway Fest」、J-WAVE NIHONMONO LOUNGE 施設プロデュース(J-WAVE、サニーサイドアップ/中田英寿氏と共同事業)など。
受賞歴:第10回 JPMプランニング・ソリューション・アワード ブランディング・キャンペーン銀賞受賞
企画開発事業部、シニアディレクター、ファーストクラスアーキテクト としてイタリアで4年働いた後、株式会社GARDEに入社。
2014年にソウルDoota SCのリニューアルを成功させた。2016年には世界的に有名なビデオゲームクリエイター、小島秀夫のオフィスを設計プロデュース。
近年は、再開発や複合施設、レジデンス開発等におけるバリューアップ企画や事業計画の策定、マッチング業務、リーシングサポートに従事している。
国内・海外のプロジェクトにおける最大バリューを付加する責務に従事する企画開発事業部の事業部長 建築・デザインから、企画やコンテンツに精通した知見を持ち合わせ、幅広くクライアント様の事業における最大バリューを生み出す事を得意としている。
■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
・坂野 泰士氏 有限会社シンプル研究所 代表取締役
・高野 一朗氏 モーターホーム株式会社 代表取締役
・洞本 宗和氏 J.フロント リテイリング株式会社 グループデジタル統括部 デジタル推進部 専任部長
目次
1 JR東日本グループでのメタバースの取り組み
1.1 JR東日本グループのメタバースVirtual AKIBA World
1.2 デジタル化が進んだ未来で、鉄道はどうなる?
2 現実のデザインに強みがある企業ならではのメタバース開発
3 リテールでメタバースを上手く活用するには?
4 まとめ
JR東日本グループでのメタバースの取り組み
JR東日本グループは2021年に「Beyond Stations構想」を掲げ、駅を交通の拠点からヒト・モノ・コトがつながる暮らしのプラットフォームへと転換するよう取り組みを始めた。
かねてよりメタバースの研究を行っていたJR東日本企画は、JR東日本、HIKKYとともに、その取り組みの中でメタバース上の駅=Virtual AKIBA Wordを開発した。
1. JR東日本グループのメタバースVirtual AKIBA World
Virtual AKIBA Wordは、現実の秋葉原駅およびその周辺エリアを再現したJR東日本オリジナルのバーチャル空間だ。「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」「シン・エヴァンゲリオン」「シン・仮面ライダー」の4作品とのコラボにより「シン・秋葉原駅」と銘打っている。
出典:光富氏資料
2022年春頃に実施されたVirtual AKIBA Worldの開業プロモーションでは、「メタバースの可視化」の象徴として、現実の秋葉原駅にメタバースの入り口となる近未来的なモニュメントを設置した。モニュメントに貼ってあるQRコードからメタバース空間に入ることができ、リアルとバーチャルが融合する体験を提供した。
出典:光富氏資料
2. デジタル化が進んだ未来で、鉄道はどうなる?
光富氏は「デジタルのリアル化はメタバース、リアルのデジタル化はARと、それぞれ異なる役割の技術がある」と話す。
鉄道の役割やサービスを考える上で、移動中の電車内だけではなく、生活動線、エキナカの施設、メタバースを含めた総合的な体験価値という視点が必要であると光富氏は提言している。
現実のデザインに強みがある企業ならではのメタバース開発
GARDEはブランディング・デザイン会社として、リテール、オフィス、レジデンス、ホテルや飲食、複合施設など様々な分野の空間やインテリアのデザインを行っている。培ってきた現実世界のインテリアデザインの力をバーチャルの世界でも活かせるのではないかということで、2023年からメタバース事業にも参入している。
GARDEが開発したメタバースプラットフォームでは、水辺の映り込みや服の皺など細かいところまでリアリティを追求して作り込まれている。
出典:石川氏資料
世界の作り込みだけではなく、バーチャル空間内の美術館内部では、各クリエイターの作品案内からECサイトに飛んで作品を購入することができるようになっているなど、販売機会も創出している。
将来的にはNFTアートも取り入れ、オークションなどもしたいと構想しているという。
出典:石川氏資料
石川氏は「今は、一人の人間の物理的な身体に一つの人格と居場所があると考えられているが、メタバースが一般化すれば、プラットフォームごとにアバターを変えたり、自分の気分に合わせてアバターを使い分けたりするようになるだろう」「さらに先になれば、メタバースだけどリアルっぽい、リアルだけどメタバースっぽいというサービスや利用シーンが増えて、ボーダーレスになっていくだろう」と話す。
リテールでメタバースを上手く活用するには?
光富氏と石川氏の講演に続いて、会場ではフェローを交えたディスカッションや質疑応答が行われた。その一部を抜粋して紹介する。
藤元(モデレーター):メタバースやVRの没入感については、今のデバイスでも十分演出できると感じている。VRの作品で身体を動かす作品を体験したときに、身体感覚が変わったと感じた。
光富氏:メタバースやVRがこれからさらに進化する上で重要なのは、没入感よりもコミュニケーションかもしれない。Oculusを体験したとき、知らない外国人が話しかけてくれたのがとても嬉しかったことを覚えている。現在の取り組みでもコミュニケーションを重視している。
高野氏(フェロー):顧客の体験価値について。現在の小売は既存のお客様をどう維持・満足させていくことが中心となっている。その中で、メタバースをコミュニティとして使えるのではないかと各所で検討されている。どこかに人を集めたり、または自宅でVRやARを体験してもらうなど何かできることはあると思っている。
洞本氏(フェロー): 株式会社HIKKY主催のバーチャルマーケットでそのような取り組みに挑戦したことがある。バーチャルマーケットからECサイトに誘導しようと試してみたが、ゴーグルをつけた状態から平面のECサイトに飛ぶという導線は、UXがよくなく買い物のワクワク感が提供できない。
光富氏:おっしゃるように、VRとECサイトを直接つなぐのはまだ難しく、VRで囲い込むのではなく、ブランドファンを維持していくためのツールになると考えている。また、リアルのものをデジタル化するだけではなく、デジタルのものをリアルのショップで売るOMOにも挑戦しようとしている。つまり、クリエイターによるデジタルの作品を物理商品のように並べるなど、リアルとバーチャルをクロスさせ、リアルの場で見せることが鍵と考えている。
石川氏:VRの可能性を探求してきたが、自分たちが生きているのはリアルの世界。VRは異次元であることの良さがあるが、現実をベースに現実ではない感覚を演出できるのはARであり、ARでできることにももっと広がりがある。
坂野氏(フェロー):コマースはVRよりもARのほうが向いているということだと考える。VRはインドアで付加価値の高い体験を提供するためのツールで、例えばテーマパークなどを再現した上で、リアルではできないことができる空間になれば、ファンは喜んでくれるのではないか。そのための入り口として、GARDEのメタバースでギャラリーを作ったというお話がしっくりきた。
まとめ
リテール分野でメタバースを上手く活用するためには、バーチャルの世界の展開だけを考えるのではなく、リアルとメタバースをどう融合させて顧客に心躍る体験を提供できるかが重要だ。
そして、リアルとバーチャルを組み合わせた付加価値の高い体験を提供するためには、VRやARのような技術をどのように使い分けるかが鍵となる。
【次回開催のご案内】
日時:6月22日(木)19時~21時
タイトル:「生成AIの現在とリテールでこれから起こること ~わずか1ヶ月で起こった破壊と創生の軌跡~」
リアル会場では、講師やフェローとの交流会があり、オンライン配信も予定している。
詳しくはコチラから(第58回のリンクを貼る)
主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net
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