2024年6月27日、66回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。
Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関する調査研究や、マーケティング視点での提言などを行う任意団体である。
今回は、「AIが変えるECと動画マーケティング」をテーマに、パロニム株式会社の代表取締役CEO・小林道生氏(講師)、Firework Japan株式会社のCountry Manager・瀧澤優作氏(ゲスト)にそれぞれご登壇いただき、ライブコマースなどを使った動画マーケティングの現状などについて語ってもらった。
また、講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、さまざまな論点で議論が交わされた。
コロナが収束しても尚配信され続けるライブコマースの魅力とは一体どこにあるのか、視聴者、配信者が得られる価値とは何なのか、講演や参加者たちの議論を一部抜粋してレポートする。
目次)
講演①:
AIが変えるECと動画マーケティング講師 小林道生氏(パロニム株式会社 代表取締役CEO)
・無駄な時間を嫌う一方で、コミュニケーションを求める消費者
・リアルタイムで売るを目的としない、Tig LIVEのライブコマースの持つ価値とは何か
・機能の追加、サービスローンチによって実現する、ショッピングの新しい形とは
講演②
動画サービスの今までとこれから、成功の秘訣とは
ゲスト 瀧澤 優作氏(Firework Japan株式会社Country Manager)
ディスカッション
・日本で定着するか、AIはどう活用できるか…ライブコマースの未来を考える
まとめ
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
AIが変えるECと動画マーケティング(小林道生氏:パロニム株式会社)
小林氏(以下敬称略):私たちパロニムは、「Tig(ティグ)」というサービスの開発と提供をしている会社です。設立は2016年11月、現在従業員数が30人ほどのスタートアップです。
Tigは、動画やライブストリーミング内に存在する様々な情報に、触れるだけでアクセスすることができる次世代型の動画技術です。映像を見ていて、この服はどこのブランドだろう、この場所はどこだろうと気になることがあった時に、都度検索するのは手間がかかります。Tigを使うと、映像ライブやビデオストリーミングの動画をワンタップするだけで正確な情報を誰でも簡単に取得でき、さらに、ツータップでその先の様々なアクションに自然と移行することが可能になります。
例えばSNSのアプリ内ブラウザでTシャツのTig動画を見ているとします。ワンタップするとそのTシャツのサイズやメーカーなどの情報を取得をすることができ、またそのTシャツをもう一回タップすると、最寄りの店舗やオフィシャルサイトへと移動できます。映像の提供元からすると、自分たちのオウンドサイトやSNSアカウント、LINEなどを通じてTig動画を見てもらい、いわゆる言語レス、または検索レスという形で、その映像から次のアクションに視聴者を誘導することができる、そうしたサービスです。
さて、設立以降のこれまでの歩み、Tigを使ったいろいろなサービスをご紹介します。設立翌年、Tig LIVE Proという、PC版のSaaSでライブのストリーミング内にタグを簡単に付けることができるサービスをリリースしました。これは元々、いわゆる音楽のビッグアーティストのライブ配信などを想定したものです。単にライブを視聴するだけではなく、例えばアーティストが話している内容をタップできるなど、いろいろなギミック、アクションを盛り込んだ新体感ライブを提供しようと作りました。
出だしも好調だったのですが、この勢いでどんどん行くぞと意気込んでいたところ、コロナがやってきます。世の中が激変し、アーティストは全てライブができなくなってしまいました。そのため、このTig LIVE Proをピボットさせて、ECのライブ配信等に使えるTig LIVEを2020年の終わりごろにリリースしました。
まずTig LIVEの仕組みについて、特徴や目指すところを説明させていただきます。これはコロナ禍、そしてアフターコロナ時代における人々の時間に対する意識、さらにはショッピングスタイルの課題と変化を研究して作っています。
調査のために他社のリサーチを見て面白いと感じたことがいろいろとあります。例えば普段の生活でのタイパ(タイムパフォーマンス)意識についてのリサーチで、「タイパを意識して行動する」、「なるべく無駄な時間は過ごしたくない」、「なるべく早く正解にたどりつきたい」という質問に対しては、それぞれ全て「あてはまる」の回答が半数以上を占めていました。「なるべく早く正解にたどりつきたい」にいたっては約8割の人があてはまると応えています。無駄な時間を嫌い、欲しい正解を得るために必要な時間に皆さんが辟易といていることが伺えます。
一方で、タイパにとらわれずに過ごしたい時間は何かという質問に対して、1位は睡眠でしたが、2位が家族とのコミュニケーション、3位が友人とのコミュニケーションが上がっています。人との関わり合い、コミュニケーションをタイパを意識せずに求めていると推測されます。要は、無駄な時間を嫌うのと同時に、質の高いコミュニケーションを強く求めているのではないか、われわれは人々の意識をそんなふうに捉えました。
無駄な時間を嫌う一方で、コミュニケーションを求める消費者
小林:このような人々の意識や我々が集めたユーザーの声などを元に、今の消費者がECおよびリアルな店舗での買い物に感じている課題は何かをまとめてみました。
まずは、お店に行くまで・欲しい商品に出会うまでの時間がかかるといった、店舗ならではの無駄な時間に対する課題があります。かといってECでも、膨大な検索結果やジャンク情報に時間を取られます。さらにECの場合、意思決定に必要な信用やコミュニケーションが足りないという課題もあるでしょう。ECの買い物には奥行きやシズル感が足りないと言いかえられるかもしれません。そして、私たちのライブコマースで視聴者から入ってくるコメントで多かったのは、押し付けられたくない、自分で自分にあったものを選びたいという声です。また、オーセンティックな情報やストーリーを知った上で購入したいという「コト消費」のようなニーズも感じます。
前置きが長くなりましたが、私たちのTig LIVEは、こうした課題を踏まえていろいろな機能を備えたサービスになっています。
例えば、インフルエンサーが配信したシューズショップからのライブコマースを例に挙げると、いろいろな商品を紹介するコーナーでは、画面上にクリッカブルな商品のアイコンを出すことができて、それをクリックするとその商品の詳細な情報を見ることができます。また、視聴者は出演者や配信者に対してリクエストや質問を投げることができて、そのリクエストに対して応え続けていくコーナーも可能です。一つのコンテンツとして、ユーザー、視聴者ドリブンで中身が進んでいくというのが非常に重要な点です。
いわゆるテレビ通販型のライブコマースは、これがお勧めという商品を配信する側があらかじめ決めて、視聴者を説得していきます。このお茶がいいんです、これ以外目もくれないでください、いつもはいくらだけど今なら何%オフです、とあの手この手でと商品をおすすめし、その場で購入させることがゴールになっていることが一般的です。
一方、私たちのTigを使ったライブコマースでは、今すぐ買わなくてもいいという形で配信しているお客様がほとんどです。
視聴者はまるで店舗を訪れて店員と気軽に話しをするように配信側とやりとりし、さらに、ライブコマースを通じて視聴者間同士でも交流が生まれます。ある視聴者がインフルエンサーに質問すると、他の視聴者が「私もそれ聞きたかった!」と言ってコミュニティになっていくんですね。Tigを使っていただいているお客様にとってライブコマースの位置づけは、ユーザーとのコミュニケーション、ブランディング、エンゲージメントを高めるためのものです。ここが、私たちが提供している接客型のライブコマースとテレビ通販型のライブコマースの大きく違う点だと思います。
リアルタイムで売るを目的としない、Tig LIVEのライブコマースの持つ価値とは何か
小林:Tig LIVEは、消費者・視聴者の課題を解決するだけではなく、配信する側にとっても非常にメリットが大きい機能を兼ね備えています。
まず、Tig LIVEでは、手間や余計な運用コストをかけずにライブコマースを実施できます。例えば動画をタップして出てくる情報の登録について、かなりの負荷があるのではと心配されるかもしれませんが、これらの情報は誰かが一つ一つ登録しているものではありません。Tig LIVE・Tig動画を作成するために必要な情報だけを我々が取りに行って、いつでもライブのサーバーの中に必要な情報がある状態を作ることができています。ユーザーがタップしたときに表示される情報を、負荷なく取り込むことができるのです。
また、ライブコマースを運用していくためには、商品に関する非常に高い知識やトーク力、台本が必要なのではと思われがちですが、ここに関しても心配無用です。Tig LIVEでは、店舗の店員さんが日常的にお客様と会話しているようなトークだけで、十分に1時間ぐらいの内容を持たせることが可能です。皆さん、最初は月2回程度が精一杯かなと最初はおっしゃいますが、大体3ヶ月ぐらい経つと週2回ほどやっていることが多いですね。
そしてもう一点、Tig LIVEを使っていただくことで、リアル店舗とオンラインのコンテンツの有機的な関係構築も可能です。ECとリアル店舗は対立関係にあるのではありません。ライブコマースをやっているからこそ、リアル店舗に来る方たちがより多くの情報を持っていたり、より既にファンになっていたりするという、お互いにとってプラスの関係が成り立ちます。我々はホットリードと呼んでいますが、ライブコマースを見ることで、温まった状態で店舗に来てくれるようになるのです。
さて、こうした効率的な運用を実現した上で、かつPV、CV、セッション、コンテンツLTVを最大化することが大切です。コンテンツLTVというのは、一回配信したコンテンツがアーカイブとして生まれ変わった後、モノを売るのにどれだけ寄与できるかという数字です。先ほどもお伝えしたように、Tig LIVEを使っていただいているところは、ほとんどがリアルタイムでライブコマースの最中にバンバン売るというやり方をとっていません。ではどこで売れるのかというと、圧倒的にアーカイブです。
しかし、ライブが終わった後、アーカイブを特設サイトかどこかに置きさえすれば見られるわけではありません。アーカイブを見ていただくために、いろいろな工夫をしています。例えば、Tig LIVEで紹介された商品の購入ページにのみ、完全自動でその商品のアーカイブ動画がフローティングというスクロールしてもずっとついてくる形式で出る仕組みになっています。
さらに、このアーカイブ動画は、該当する商品を紹介している部分が自動で頭出しされるようになっています。ただし、動画はその商品に関する部分から始まりますが、他の商品のところを切っているわけではありません。同じ動画の中に他の商品の紹介部分も入っているので、いろいろな商品への導線にもなっています。1本の動画から複数の購入ページに回遊していく、つまり周遊性を上げていくことができる形になっているんです。
具体的な成果も出ています。例えばとある大手アパレル企業は、14のブランドの平均CVが40%アップしています。また、Tigの視聴者と非視聴者を比較するとCVに約5.1倍のひらきがありました。それから、家具や生活雑貨を販売している企業の場合、通販の売上が28.3%増え、2023年から2024年の1年間で600万人超がTig LIVEを視聴しました。
そして、中には1配信のコンテンツLTVが12カ月を超えたものもあります。つまり、1年前に配信したものが未だに売上に寄与しているということです。エコシステムができていると言えるのではないかと思います。
機能の追加、サービスローンチによって実現する、ショッピングの新しい形とは
次に、昨年8月にローンチしたTig Creatorについても少しご紹介いたします。これは、スマートフォンのアプリ一つで、簡単に動画が作れるツールです。これを使うと、InstagramやTikTokに既に上がっている動画をインポートしてきて、タグ付けをして、そして自社のホームページなど、その動画を出す場所をレ点で印を入れるだけで、アップすることができます。それから、動画のURLをInstagramのストーリーズや、Facebook、LINE等にそのまま貼り付けておけば、視聴者は同じ動画をいろいろな場所で見ることができるようになります。
大体、どなたでも3分ぐらいで一つの動画を制作することが可能です。店舗の店員さんはもちろん、インフルエンサーやクリエイターなどさまざまな人がこのアプリで簡単にTig動画を作りSNSなどにアップできます。
このTig Creatorでとあるアパレルのマーケットプレイスさんは半年間で318本の動画を制作し、CVを138%上げています。それから別の玩具メーカーさんでは、オウンドサイトでTig動画を視聴したユーザーの平均セッション時間が、視聴していないユーザーに比べて380%以上も長くなりました。視聴している方の平均は789秒、つまり13分ぐらい滞在するようになっています。今、オウンドにどれだけ人を連れてきて、そこからどうロイヤル化をしていくのか、エンゲージメントを高めていくのかが喫緊の課題と言われていますが、そこにこのTig動画は大きく貢献できると思っています。
こうしてTig LIVE、Tig Creatorによって動画を視聴してもらうことができたら、次に、どのようなデータを取ることができて、そしてどんな分析が可能になるのでしょうか。
まずデータに関して、これまでは、再生回数や視聴の完了率などを取ることができても、そこで視聴した人がどう行動したのかがよくわからないというケースが多かったのではないかと思います。それに対して私たちのTigを使った動画では、どういうシーンで何がタップされたのか、タップした人はその後ランディングページまで行ったのか等、細かい情報を取ることができます。これによって、どういう見せ方、どういう映像がその後のコンバージョンにつながりやすいのか、滞在率を高めるのかなど具体的な分析ができるようになりました。
さらには、引いている・パンしているといったその映像のカメラワークや映像の中の際立った特徴点と、視聴者の購入行動などを結びつけた解析をしていて、この技術で今年4月に特許も取得しています。
いろいろな知財戦略も進めているところですが、これらは、まだAIによる解析に現時点では至っていません。今はクライアント様とPoCを行い、どういったレコメンデーションが出てくるかなどをいろいろと調べているところです。
クライアント様による、OMOの取り組みも活発になっています。大手家具販売店のニトリは、配信者と視聴者の間の会話の循環に注目して、店舗づくりに活かす取り組みをしています。例えばライブ配信で商品を紹介していた時に入ってきたリクエストやコメント、「このノートに合う鉛筆はありますか?」といった質問などを細かく分析して、リアル店舗のレイアウトを変更しているんです。どんなに優秀な店員さんでも、毎日お客様からどんな質問をされて、それに対してどう答えたか等を全て文書化することはできません。
対して、Tig動画を利用することで、一回の配信で何1000人何万人から来るリクエスト、その情報をを分析し、消費者が潜在的に持っているレイアウトに対する欲求などを導き出し、実際の店舗に反映することができるようになっています。OMO文脈で非常に重要な取り組みだと思います。
最後に、今年の7月にローンチ予定のAtouch Tigについてご紹介いたします。今までTigはエンタープライズ企業様や、ミドルクラスの比較的大きな企業様にご利用いただいてきたのですが、さらに対象を広げて個人レベルでもTigを使っていただけるよう開発したものです。このサービスでは、LINEの公式アカウントの中にTigを連携させて、商品登録をし、Tig動画をLINEに投稿し、視聴者はそこで見たり欲しいものを購入したりできる…そうした一連の全てをLINE内で完結できるようになっています。
LINEはご存知の通り膨大な数のユーザーを抱える、コミュニケーションツールの1丁目1番地です。ここで映像を介して商品を伝えることができることで、一つの新しいショッピングの形を作ることができるのではないかと思っています。
我々の提供しているTigについて、サービス提供を通じて感じる、ECや店舗販売に対して動画が持つ可能性などについてお伝えしました。ご清聴ありがとうございました。
動画サービスの今までとこれから、成功の秘訣とは(瀧澤 優作氏:Firework Japan株式会社)
瀧澤氏(以下敬称略):改めましてFirework Japanの代表を務めています瀧澤です。我々の会社は、ECの売上を向上する動画サービスを提供していて、基本的にはエンジニアも新しいコンテンツ制作も不要で、サイトのスピードを落とさずに明日から使えるというのが特徴です。色々なソリューションを持っていますが、例えばショート動画に関しては、お手持ちの動画を我々のシェアルームのようなところにアップロードいただいて、そこで生成されるHTMLのコードをサイトやアプリに埋め込んでいただくと、いわゆるInstagramやTikTokのようなUI、UXで商品を紹介し、さらにはそこから購買までできるという仕組みになっています。
本社はシリコンバレーにあり、現在約300人でグローバルでサービスを運営し、直近では9000以上のブランド、小売企業様にサービスを展開しております。
本日は、動画コマースの今までとこれからという形で簡単に考えをご紹介させていただければと思います。
今までは動画というと、SNSに流したりYouTubeを埋め込んだりして、そこから流入をさせる形が主だったやり方でした。しかし、やはりSNSに流しているだけだとなかなか売上に繋がりづらい、フローコンテンツで終わってしまうという課題があり、そのために今、オウンドにも動画をうまく活かしていこうという流れが強くなってきています。
我々もまさにそこを支援しています。ショート動画、ライブ配信、それぞれご支援する中で成功の秘訣みたいなものが見えてきました。例えば、動画の途中のタイミングでいわゆるアクションを促すようなことをやった方が良く、さらには動画からそのままカート追加ができるようにすることがCVアップの肝になります。また、どのページにどんな動画を載せるかも重要です。例えばトップぺージだったらプロモーションのような動画を載せ、商品詳細ページにはHow to動画やレビュー動画を載せる方が効果が高くなります。また、常に同じものを流し続けるとノイズになってしまうので、新規の人には見せるけれども、何回も来てる人には見せないようにするといった工夫も必要です。
ライブコマースにも取り組んでいます。我々にとってライブコマースは、CRMの施策の一つという位置づけです。コロナが終わってもライブ配信を続けている企業やブランドは少なくありません。なぜかというと、ライブ配信をすると、視聴したユーザーのブランドロイヤリティが高まり、購買頻度、LTVが上がるということが分かってきているためです。これは、デジタル上でも深い接客体験ができるということの表れではないでしょうか。
これらのデータは、いわゆるCRMのインプットデータとしても使えますし、その後のプロモーションやプッシュ通知などに使うことも可能です。オフラインでの購入はあるけれど、オンラインでは買ったことがないユーザーに対して、実際にライブを見てもらってECの利用を促していくような、そういったマーケティング施策の一つとしてデータを活用するのが良いのではないかと思います。
最後に、AIについても少し触れさせていただきます。動画制作、特にライブ配信に関しては、やはり誰が配信するのかが避けて通れない問題です。そもそもスキルがあるかどうか、そしてスキルが不要だとしても、人間なので24時間365日することはできません。その点ですぐに拡大の限界が来てしまうという課題を解決するために、我々はバーチャル店員をリリースしました。
もちろんベースとなるのはその会社、各ブランドさんの接客になるので、それぞれの接客をできるだけ多く学習させながら、最終的には1対nのコミュニケーションを24時間実現させることを目指しています。
我々は、これをAIビデオアシスタント「AVA」と名付けました。AVAに人間の接客データを覚えさせることによって、人間によるライブコマースをできるだけ忠実に再現したり、接客レベルを高めたりできればと思っています。
今は、動画による販売促進と言うと、YouTubeの埋め込みがまだまだ世の中の主流かもしれません。我々はよく、「競合はどこですか?」と聞かれるのですが、「YoutTubeの埋め込みチームです」と答えるようにしています。果たしてそんな名前のチームがあるのかは不明ですが(笑)、そこを駆逐するつもりで取り組んでいます。
動画をベースにWEBサイトおよびアプリの体験を刷新し、いろいろなブランドや小売の皆さんが動画に近くなる、そしてユーザーが楽しくショッピングできるようになればいいなと思っています。
【ディスカッション】日本で定着するか、AIはどう活用できるか…ライブコマースの未来を考える
講演に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。
■ディスカッション参加フェロー
・川連一豊氏 JECCICAジャパンEコマースコンサルタント協会 代表理事
・石郷学氏 株式会社team145 代表取締役
藤元:動画を使ったコマースに向いている業種や価格帯、商品などはあるのでしょうか。
小林:高いものは売れないのではというイメージを持たれたり、さすがにそれは触らないと買うと決められないのではないですかという質問をよくいただいたりするのですが、我々の例でいくと数十万円する寝具や、高級ワインなども販売実績があります。我々のやっているTig LIVEだと、たとえ店舗に行ったとしても店員さんを捕まえてそこまで細かく質問できないのではというところまで詳細案情報を双方向のコミュニケーションの中で伝えることができるので、逆に買う買わないに必要な情報をユーザーは十分得ることができているのではないでしょうか。
例えば何十万円もする高級寝具を買うときに、仮にショールームまで行ったとしても、何10本のマットレスに寝てみて、自分で違いを理解できるかというと疑問があります。それよりも、ユーザーは情報の精度や信頼性を求めていて、それらがあって初めて買うという判断につながるのではないかと思っています。
もちろん一番多いのは、7、8,000円から2万、3万ぐらいの価格帯の商品になりますが、一方で高単価な商材や買ってから数年間は使うようなものでもライブコマースに合わないということはないと思います。何か特定のジャンルのみがライブコマースにハマるのではなく、今後わかりやすい事例が出てきて、だんだんといろいろな業界に広がっていくのではないでしょうか。
瀧澤:同感ですね。基本的に重要なのはデジタル上の接客だと思っているので、どんな商品でも接客が必要なものであれば問題ないのではないでしょうか。一方で、接客が不要な日用品は正直そんなにあわないかもしれません。そういった意味で、接客軸で捉えた場合に、業界や業種の合う合わないはあるかもなとは思います。
川添:ライブコマースは中国などでかなり成功し、日本でも取り組むところが増えましたが、個人的には一時期より落ち込んでいるのではという印象を持っています。日本でライブコマースは流行るのでしょうか。
瀧澤:何をもって成功というのかがまず大事かなと思っています。中国のライブコマースの成功は、トップラインで語られることが多いんですよね。売上高、それも1ブランドの売上高というよりは、プラットフォーム全体の売上高です。つまりモールだとか、そのプラットフォームのEC売上が上がりましたという言い方です。
ユーザーもいくつかのECプラットフォームに集中していて、ユーザー数が圧倒的に多い中国では、それぞれの売上の数字も大きくなります。対して日本国内では、個別のオウンドメディア、オウンドサイトでやることが多いので、トップラインだけで見ると全く違う数字になってしまいます。
さらに、中国のライブ配信の成功は、トラフィックと、あとは限定商品のようなその場で買わないと損するといった動機付けからきているので、トップラインはあっても利益率はかなり低いチャネルになっています。一方で、日本がオウンドでやっているリアルライブ配信というのは、リピーターさん中心で、利益率やLTVが出やすい作りです。構造が違うので単純な比較はできないですし、今の日本のブランドが求めているのはどんな形かを考えると、瞬間の売上よりはLTVを各社注視されてるかなと思います。
小林:2020年から21年の半ばくらいまで、当時京都大学の教授が中国の生徒さんたちと一緒にやっていた、なぜ中国のライブコマースがうまくいって他はうまくいかないのかという研究に参加させていただいたことがあります。
そもそもなぜ中国のライブコマースがうまくいったのか、その教授が言うには、中国の国民は中国の企業の商品を全く信用していないという前提があります。そういう構図がある上で、KOL、キーオピニオンリーダーが出てきて、企業に対して、ちゃんとしたものを出すなら自分のフォロワーに売ってあげるから半額にしてくれ、70%オフにしてくれというその様子を全て見せるんですね。その商品がいかに素晴らしいかをそのKOLが説明して、みんなが一斉に買うという仕組みが中国で出来上がっていたと。
ただし、この構図も変化しつつあり、かつてのようには売れなくなっています。また根本として値引きせずに売れるのかという問題が全く解決できておらず、ブランディングやお客様とのコミュニティを作っていこうと考えたときには、中国のやり方は破綻しているのではと私は思っています。
石郷:ライブコマースで成果を上げている企業の一つに上げられる、とあるアパレルブランドのデジタル担当の部長と話をしたことがあるのですが、その方はライブコマースの価値をすごく感じると言っていました。特にアーカイブを残した時に、その商品の魅力を改めて伝えることができる、そしてそこのコンバージョンレートが抜群に高いと彼は感じていて、そしてライブコマースの専用の部隊を作ったんですね。
何が聞きたいかと言うと、ライブコマースの必要性があると感じたときに、果たしてそのアパレルブランドのような受け皿を用意する企業がどれくらいいるだろうかということです。
おそらく、なんとなくやって通用する世界ではないと思うのですが、今お付き合いしている企業の皆さんはどの程度力を入れてやっているのか、組織として人員も振り分けて、そこまでして成果を出しているのかどうかをお二方にお聞きしたいです。
小林:はい、ありがとうございます。私たちのクライアントさんでいうと、さまざまですね。中には兼務禁止でライブコマース専用チームを作り、さらには新入社員全員をオーディションしてクルーを選抜していらっしゃるところもあれば、店舗の店員さんが週1回、2回プレスルームに来て、何のカンペも持たずにそのまま配信して終わるというお客様もいらっしゃいます。何を持ってケイパビリティとするかは、いろいろな要素によって変わってきますし、クライアント様によってまちまちです。
恐らく、これはROIで考えるべきで、そこに費やした人件費や場所代や時間も含めたコストを考えたときに、それに対してどれだけの利益を生むことができるのか、粗利が何パーセントなのかが大切です。コストをかけてもそれに見合うリターンがあるならやるべきですし、ほかにもっと良い手段があるならそちらを取るのが正解なのではないかと思っています。
瀧澤:私の場合は、ある程度しっかりとライブコマースを位置づけて取り組まないと難しいのではないかと考えています。当社の場合は、「ちょっとなんか試してみたいんだよね」というお客様には、我々のツールではなく、もっとライトにできるものをご紹介するようにしています。それこそインスタライブでもいいですし、手軽にできるものの方がそういうお客様には向いているはずです。
我々としては、デジタル店舗を作るくらいの意識をもって、ちゃんと投資をする、投資と言ってもお金だけの問題ではなくトップがマインドを持つ、そこを合意できた企業様とご一緒するようにしています。
藤元:AIの話もお伺いしたいと思います。先ほどFireworkさんからAVAを見せていただきましたが、人間の熱量を持った人でないと価値を出せない部分がある一方で、自動化して、商品のデータから最も優秀な営業マンのノウハウの基に接客してくれる自動動画、ECができるようになるかもしれません。こうした接客の自動化などの可能性について、お二人はどうお考えでしょうか。
小林:私はあまりそこに関する知識がないのですが、個人の考えとしては、例えば生活消耗品のように深く考えなくても買えるようなものはそうしたAI動画でいいのかもしれません。また、こういうコメントが来ていて、こういうリアクションがあるから、こういう風に切り替えた方がいいなどと判断するプロデューサーとして、AIが活躍するのはあると思います。一方で、接客そのものについては、そこまでして何かものを買いたいと思うかという点で疑問が強くあります。ちょっと私は否定派ですね。
瀧澤:正直申し上げて、バーチャル店員はめちゃくちゃ時期尚早です。人間を代替するものではないのですが、我々としてはどこまでできるのか、実証実験も含めてやらせていただいているという位置づけですね。できそうなイメージがあるものは作ってみたいなというところで取り組んでいて、実際の効果が出るところまではまだ全然いっていません。これからかなと思います。
藤元:ありがとうございます。私の個人的な結論は、今日のお話にいくつかヒントがあった通り、熱量高いファンが勧める、要するにブランドではなくてお客さんとかファンが勧める方は絶対に人がいいと思うんですよ。それはもう明らかに人の熱量に左右されるところが大きいと思います。ただ、ブランド側が発信する情報は、社員である必要もなければ、経営者である必要はなくて、そのブランドが形づくる最適で理想的なキャラクターが、パーソナライズして説明してくれるという世界が、あり得る気がしています。これからどうなるのか、未来が楽しみですね。
まとめ
テクノロジーの進化に伴って、形を変え、より多くの価値を提供できるようになっているECのショート動画やライブコマース。リアルな店舗と異なる魅力を持ちながら、また一方でOMOのような店舗に対する価値提供も実現する動画マーケティングに、さらなる期待が寄せられ
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